
岩山の中腹に建てられた魔尼殿
966(康保3)年、性空上人(しょうくうしょうにん)によって創建された天台宗の古刹、圓教寺。西国三十三ヶ所の27番札所にもなっており、観音霊場を巡る参詣者も数多い。ロープウェイの山上駅を降りるとすぐに仁王門。参道を15分も歩けば摩尼殿(まにでん)だ。摩尼殿は、本尊の六臂如意輪観世音菩薩を安置する仏堂で、清水の舞台を思わせる懸崖造りの堂が迫力満点。「まに」とは梵語で、どのような願いもかなう如意宝珠をあらわす言葉。970(天禄元)年創建という堂が建つ前に、天人が桜樹を礼拝するのを見て、性空上人が根のあるままの生木に観音像を刻んだ。そのため岩山の中腹に舞台造りの建物を建立したというわけだ。

講義が行なわれることが名の由来の大講堂
摩尼殿からさらに10分ほど歩くと大講堂、食堂(じきどう)、常行堂がコの字に配された場所に出る。映画『ラストサムライ』を見たことがある人なら、「おおーっ!」と感嘆の声を上げる場所だ。緑に囲まれた山上に、重要文化財に指定された3つの堂があり、しかも堂の前の広場には何も置かれていない。「引きも充分にあるし、まさに映画向けですね」とはプチたびカメラマン・大石正英の見解。大講堂は圓教寺の本堂にあたる建物でお経の講義や論議が行われる学問と修行の場。内陣には本尊である釈迦三尊像(国の重要文化財)が安置されている。

1階の写経道場がロケに使用された
食堂(じきどう)とは、修行僧の寝食のための建物。1174(承安4)年の創建で2階建てという珍しい建物。しかも全長40mという長大なもので、長堂とも呼ばれている。実は建物は創建以来数百年間の間未完成で、昭和38年の解体修理時に本来の完成形になったという。1階が写経道場、2階が寺宝の展示館として使われているが、『ラストサムライ』では勝元(渡辺謙)の住居という設定。近代化を目指す日本政府に軍事顧問として招かれたオールグレン(トム・クルーズ)が初めて侍と戦いを交えた日に、負傷して捕虜となったとき、勝元、氏尾(真田広之)がオールグレンの処遇を考えるシーンで登場するのがこの食堂の内部。写経道場の凛とした雰囲気が、渡辺謙と真田広之の出会いという重要なシーンに存分に生かされている。

飛び出した部分が映画にも登場する舞台
常行三昧(じょうぎょうざんまい=ひたすら本尊である阿弥陀仏の名を唱えながら本尊を回る修行)をするための道場。五間四方、宝形造の大規模な建物は比叡山延暦寺と同じスタイル。東向きで、北接する長さ十間の細長い建物が楽屋、その中央に張り出した舞台があり、この舞台は大講堂の釈迦三尊に舞楽を奉納するためのものと推定されている。『ラストサムライ』では勝元(渡辺謙)が阿弥陀如来座像の前で般若心教を称えるシーンや、その直後の勝元とオールグレン(トム・クルーズ)との会話シーンが撮影された。

本多家廟所。映画では桜の舞い散るシーンとなった
大講堂、食堂、常行堂と3つの重要文化財が建ち並んだ堂宇のすぐ南側にあるのが本多家廟所。土塀で囲まれた姫路城城主・本多家の墓所で、廟屋5棟と本多忠刻らの墓碑が並んでいる。5棟の廟屋は、江戸時代の大名の貴重な廟屋建築で兵庫県指定の文化財。『ラストサムライ』では、咲き乱れる桜の下でオールグレン(トム・クルーズ)と勝元(勝元)が武士道について語り合うシーンが撮影された。

映画では雪積もる冬のシーンに使われた
大講堂・食堂・常行堂から書写山の山上をさらに奥へと歩くと奥の院がある。奥の院の中心的な建物が開山堂。その名の通り、圓教寺を開山した性空上人を祀る堂で、創建以来と伝えられる灯明が燃え続け、今も朝夕欠かさず勤行が行なわれている。現存する建物は、江戸初期のもの。軒下には四隅に左甚五郎作と伝えられる力士の彫刻が残るが、西北隅の一つは、重さに耐えかねて逃げ出したと言う伝説もある。『ラストサムライ』に登場する開山堂は、なんと雪のシーン。地面にはビニールを敷き詰め、ビールの泡状のものを雪に見せて敷き詰めた。3秒のシーンに数日かけるというハリウッド映画ならではのスケールだ。

トム・クルーズの休憩所となった十地院の内部
常行堂の西、重要文化財に指定された鐘楼近くにある塔頭(たっちゅうう)寺院が十地院。十地院は、常行堂などの3堂にも近く、眺めもいい絶好の場所にあるということから主演のトム・クルーズの控え室になった場所。近くの法華堂はトム・クルーズの着替え室だ。映画の撮影後、ファンの強い要望もあって、十地院は茶店として営業を行なっている。摩尼殿の前にある「はづき茶屋」の支店でくずきり300円、抹茶500円などが味わえる。晴れていれば播磨灘を遠望するという眺望も自慢だ。

寝殿造りの中門の残る壽量院
ロープウェイ山上駅に近い仁王門と、魔尼殿との間にある塔頭寺院が壽量院。現存する建物は、江戸中期のもので、中門など、寝殿造りの古い形式を備え、内部は書院造りという凝った造り。古くは1174(承安4)年には後白河法皇がここに7日間こもって観世音菩薩の加護を願ったという。重要文化財に指定された建物のなかで、4月〜11月の間なら精進料理をいただくこともできる(要予約・木曜定休)。しかも書寫塗りという幻の食器にのって出されるのだ。5名以上で、TEL0792-66-3553に予約を。


